弱者の救世主!消費者契約法とは?
「消費者契約法」って聞いたことはありますか?
2022年7月8日、故 安倍晋三 内閣総理大臣が奈良県で演説中に殺害された事件によって、ある宗教団体とともにワイドショーで聞くことが多くなった法律かもしれません。
今回は特定の宗教団体にフォーカスしたものではなく、消費者契約法を全般的に取り上げてみたいと思います。
民法?消費者契約法?どう違うのか
ほとんどの方にとって、普段の生活では法律そのものの響きが身近ではないと思います。
そんな中でも、ほとんどの人が聞いたことがる有名な法律があります。それが「民法」です。
民法は私たちの日常生活を規律する基本となる法律です。
よく「私法の一般法」とも呼ばれ、私人同士がモメた場合の解決の基準ともなる法律といえます。
民法は大きく分けて5編で構成されています。→「総則編」「物権編」「債権編」「親族編」「相続編」
中でも、「総則編」という全体ルール、「物権編」という物の権利に関するルール、「債権編」という人の権利に関するルールの3つは「財産法」と呼ばれます。
基本的には人と人が約束事でモメた場合、「財産法」というルールに則って解決をすればOKです。
でも、それなら「民法」さえあれば問題は解決するのに「消費者契約法」は何のためにあるのか?
「民法」は明治時代に定められた基本ルールです。
時代背景としても、取引をするのは個人 vs 個人がメインに想定されていました。
私人同士がモメる分には「民法」で十分ですが、近現代になるにつれて取引の主体が様変わりします。
産業革命以降、大資本によって爆発的に「企業」「会社」「商店」が発達しました。
そうなると、取引をするのは個人 vs 企業(会社)となります。企業(会社)は「事業者」と言い換えてもよいでしょう。
一個人と事業者とでは、取引や対象となる商品に関する情報の量・質がケタ違いに差があります。
情報の非対称性が存在したまま、一個人が企業と契約をしたらどうなるでしょうか?
取引内容・商品に関して誤認したり、長時間にわたって家に居座られて怖くなった結果で契約させられてしまうかもしれません。
そこで「消費者契約法」の出番となります。
「民法」で想定していなかった個人 vs 事業者の場合には特別に「消費者契約法」で追加の救済措置が取れるという構成になっている訳です。
ですから、この2つの法律の立ち位置は、「民法」は一般法、「消費者契約法」は民法の特別法という2階建て構造になっているということです。
逆にいえば、民法で救済できなかったとしても消費者契約法を適用することができれば救済できることがあるということになります。
消費者契約法が目指すこと
さて、そんな特別法「消費者契約法」はどのような目的でつくられたのでしょうか?
それは法律の目的規定に明確に表れています。
消費者契約法(抄)
第1条
この法律は、消費者と事業者との間の情報の質及び量並びに交渉力の格差に鑑み、事業者の一定の行為により消費者が誤認し、又は困惑した場合等について契約の申込み又はその承諾の意思表示を取り消すことができることとするとともに、事業者の損害賠償の責任を免除する条項その他の消費者の利益を不当に害することとなる条項の全部又は一部を無効とするほか、消費者の被害の発生又は拡大を防止するため適格消費者団体が事業者等に対し差止請求をすることができることとすることにより、消費者の利益の擁護を図り、もって国民生活の安定向上と国民経済の健全な発展に寄与することを目的とする。
要するに「消費者は弱い立場です。だから事業者と契約をしたとしても一定の場合には消費者は後から取消すことができることにしますよ」という趣旨です。
特に契約の締結過程においては、事業者の不適切な動機付けや影響力の行使によって、意思形成が正当になされないまま消費者が契約の申込み又は承諾を行うことが少なくありません。
基本ルールである「民法」では、法的に契約が成立しているのなら後から取消すには相応の原因が必要です。
場合によっては、消費者が契約をやめるとなれば「債務不履行」など逆に法的責任を追及されてしまう可能性もあります。
そんな責任を消費者に負わせるのはかわいそうだ、という考えが「消費者契約法」です。
事業者はなぜ強い立場なのか?
このように消費者契約法では「事業者」に対して厳しい規定が定められています。
なぜ事業者はそんなに強い立場たりえるのでしょうか?
契約の場面を思い浮かべてみましょう。ある商品の売買をする場面です。
- 事業者は扱っている商品・権利・役務に関する内容や取引条件についての情報を消費者よりも多くもっています(情報の量の格差)
- 事業者は当該事業に関し、消費者よりも交渉のノウハウがある(交渉力の格差)
- 事業者は当該事業に関連する法律、商慣習について一般的に消費者よりも詳しい情報をもっている(情報の質及び量の格差)
- 契約書の条項についても事業者自らが作成したものであることが通常で、ひとつひとつの条項の意義についての知識を持っている(情報の質及び量の格差)
- 同種の取引を大量に処理するために、事業によってあらかじめ設定された契約条項を消費者が変更してもらうことはほとんど現実的にありえない(交渉力の格差)
いかがでしょうか。自分自身の経験で思い返してみても「たしかに、そうだ」と思う方がほとんどではないでしょうか?
このように事業者は自分が売り込む商品について知り尽くしており、法律その他にも精通しています。
そうすると、消費者が事業者と対等に契約をしようとしても無理があることが通常だといえそうです。
消費者契約法では何ができるのか?
具体的に「消費者契約法」によってどんなことができるのでしょうか?
どんな風に消費者を「救済してくれるのか?」と言ってもいいかもしれません。
主な2つの条文にそってみてみましょう。
消費者契約法(抄)
第4条
消費者は、事業者が消費者契約の締結について勧誘をするに際し、当該消費者に対して次の各号に掲げる行為をしたことにより当該各号に定める誤認をし、それによって当該消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をしたときは、これを取り消すことができる。
一 重要事項について事実と異なることを告げること。 当該告げられた内容が事実であるとの誤認
二 物品、権利、役務その他の当該消費者契約の目的となるものに関し、将来におけるその価額、将来において当該消費者が受け取るべき金額その他の将来における変動が不確実な事項につき断定的判断を提供すること。 当該提供された断定的判断の内容が確実であるとの誤認
この第4条では、消費者が事業者に対して取消権を行使できる旨が規定されています。
1つ目は、事業者が勧誘をかけるにあたり重要事項について不実告知をしたり、その不実の内容が事実であると誤認させた場合です。
不実告知というのは、事業者が消費者に対して事実と異なることを告げることを指します。
もう少し詳しく表現すると、客観的な事実により真実又は真正でないことをいいます。
例えば、魚屋さんが店頭で「新鮮だよ!」と言ったので魚を買ったが、たいして新鮮であると思えなかったというのは不実告知ではないので取消権は行使できません。
魚屋さんは主観的な評価として「新鮮!」と言ったのであって、魚が完全に腐っていることを証明するでもない限りは客観的に「新鮮さ」を判断をすることはできないからです。
一方、有料のCS放送について勧誘を受けて、「いつでも止められます」と言われたので受信契約をしたのに、実際は4年縛りがあって途中解約ができなかった、というのは不実告知にあたるので取消権を行使することができます。
客観的に真実と異なることを告げていることが判断できるからです。
2つ目は、事業者が断定的判断の提供をした場合です。
断定的判断の提供というのは、確実でないものが確実であると誤解させるような決めつけ方をいいます。
例えば、証券会社から勧誘されて「円高にはならない」と言われたので外債を購入したが、その後、円高になった場合には断定的判断の提供しているので取消権を行使できるということです。
消費者契約法(抄)
第10条
消費者の不作為をもって当該消費者が新たな消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をしたものとみなす条項その他の法令中の公の秩序に関しない規定の適用による場合に比して消費者の権利を制限し又は消費者の義務を加重する消費者契約の条項であって、民法第一条第二項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するものは、無効とする。
第10条では消費者契約が無効となる包括的なルールを定めています。
ここでいう「無効」とは、「取消し」と意味が異なります。
「あったものを無かったことにする」ではなく、「そもそも無かったことになる」という意味合いです。
特に、消費者の権利を制限し又は消費者の義務を加重する条項で、民法第1条第2項の基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するものの効力を否定しています。
事業者は交渉力があり消費者より優位に立っていますから、場合によっては消費者がわからないことをいいことに特約を記載することがあります。
特約=特別な約束 という言葉の通り、本来なら任意規定によって消費者が行使できる権利を特約によって制限してしまうことになります。
例えば、健康食品のサンプルが届いたところ、継続購入が不要である旨の電話を消費者側からしない限り、1カ月に1回の頻度で継続購入する契約を締結したものとみなす旨の条項が含まれていた場合は取消権を行使する必要すらなく、そもそも条項自体が無効となります。
そのほかにもある類型は下記の通りです。
- 事業者からの解除・解約の要件を緩和する条項
- 事業者の説明責任を軽減し、又は消費者の説明責任を加重する条項
- 消費者の権利の行使期間を制限する条項
- 消費者の生命又は身体の侵害による事業者の損害賠償責任を免除する条項
このように、「消費者契約法」の特徴がおわかりいただけるでしょうか。
事業者が立場を利用して自己に都合の良い勧誘・契約をしようとしても、消費者契約法によって無効とされてしまうんです。
これなら「民法」では救済できないような状況でも、消費者の保護にフォーカスを当てたこの法律があれば救済できる道が開けます。
今回ご紹介した条文の他にも消費者契約法には多くの規定があります。
それらを活用することで、若年者や高齢者など多くの消費者を不当な勧誘・契約から救済することができます。
内容証明郵便などで取消権の行使をお考えの場合には、「そうだ、行政書士に相談しよう」と気軽にお声がけください。