借地権のアレコレ

『借地』という言葉。

たまに、耳にすることがありませんか?

こと不動産の業界では『借地』は避けて通れない分野です。

本ブログでは『借地』について少し記してみたいと思います。

『借地権』とは何なのか

早速ですが、『借地権』とは具体的にどのようなものを指すのか前提を確認しましょう。

基本的に、読んで字のごとく「土地を借りることによって生じる権利」であると考えて間違っていませんが、もっと正確に表現すると「建物を建てる目的で土地を借りることによって生じる権利」といえます。

借地借家法(抄)

第2条

この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。

一 借地権 建物の所有を目的とする地上権又は土地の賃借権をいう。(~以下余白)

このように、『借地権』には 建物を所有する目的 が必要となります。

つまり、逆にいえば資材置場や青空駐車場として借りるような場合には『借地権』とはいいません。

また、当然ですが、『借地権』が成立するには地代の支払いも必要です。

親が所有する土地にその子が建物を建てて無償で使うような場合がありますが、これは『借地権』ではなく『使用借権」と呼ばれます。

この場合は、第三者に対して強い権利主張ができなくなり、『借地権』とは区別されます。

『借地権』『地上権』『土地賃借権』の種別

そして、『借地権』の話をより一層わかりづらくしているのが、前出の借地借家法の条文にある『地上権』『土地賃借権』という言葉ではないでしょうか?

でも、実はこの曖昧な3つの言葉はシンプルに分けて考えれば簡単に理解できます。

借地権の中での『地上権』は "建物を建てるための地上権" と言い換えるのが正確な表現です。

『土地賃借権』もまた "建物を建てるための土地賃借権" が正確な表現といえます。

この2つの権利は、どちらも地代を支払って建物を建てるために土地を借りているという点においては同じものです。

ただ、細かくいえば『地上権』は物権といい、相手を問わずに権利を主張することがきる排他的・絶対的なものですが、『土地賃借権』は債権となり請求する相手や給付内容を限定した相対的な権利である点に相違があります。

具体的な物権と債権の違いは特に「権利譲渡」の場面で大きな違いとなります。

つまり、「土地を借りて利用できる」という権利を第三者へ譲り渡す際のことです。

『地上権』は物権ですから、自由に譲渡できます。

しかし、『土地賃借権』は債権ですから、「地主の承諾」が無ければ勝手に譲渡することができないのです。

そして、『借地権』というのは、実は上記の2つの権利『建物を所有する目的としての地上権』と『建物を所有する目的としての土地賃借権』を総称する言葉というだけなんです。

『借地権』が親でその下にチョット強めの『地上権』とやや弱めの『土地賃借権』が併存しているという位置づけです。

世の中のほとんどは『土地賃借権』

ここまでの話からすると、どうせ権利を持つなら強い方(地上権)がいい、と思うのが自然です。

ですが、地主(土地を貸す人)からすれば貸した相手の権利が非常に強いのは自分にとって面倒ともいえます。

そのため、世の中にあるいわゆる『借地権』のうち、『地上権』はごく少数です。

現実的には、『借地権』のほとんどは『土地賃借権』が占めているということは覚えておいてください。

旧法上の借地権

ここで、もう一つ不動産の現場を困らせるのが『旧法借地権』の存在ではないでしょうか?

実は、借地借家法が施行されたのは平成4年(1992年)8月1日のことです。

意外と最近だと思う方も多いのではないでしょうか?

借地借家法の歴史は、実はほんの30年ほどしかありません。

しかし当然ながら、土地の貸し借りは太古の昔から人々の間で行われていたのであり、借地借家法の施行より以前にも『借地権』は存在していた訳です。

そのため、借地借家法の施行より「旧法借地権」と区別して称することが多いのです。

『旧法借地権』では、その土地の上にある建物を『堅固』『非堅固』に区別していました。

契約上の期間の定めが有るか無いかにもよりますが、『堅固』の場合は最大で60年の契約期間となり更新後は30年の契約期間としています。

『非堅固』の場合は最大で30年の契約期間となり更新後は20年の契約期間としています。

このような期間の他にも、旧法借地権の場合には「建物の再築」「建物の朽廃による借地権の消滅」において現在の借地借家法(区別として新法という)と異なる取り扱い項目があるので注意が必要です。

不動産の実務においては、この『旧法借地権』がまだまだ生きている物件が多いので、当事者の間にある「借地権」が旧法なのか新法なのかの区別は正確に把握する必要があります。

『普通借地権』と『旧法借地権』との関係

そんな『旧法借地権』ですが、時代の変遷とともに建築技術も向上し「堅固」「非堅固」を区別する実益も乏しくなりました。

また、旧法借地権の時代には「貸した土地は半永久的に戻ってこない」という地主側の意識が一般的であったのが原因で、一定期間のみに限った借地が実現できないなどの不都合に応えるために新法の借地借家法が施行されるに至りました。

具体的には、新法の借地借家法では通常の借地権の他に『定期借地権』『一時使用目的の借地権』を創設して借地の方法にバリエーションを持たせることで、貸し手・借り手の双方にある幅広いニーズを法的に解決することを目指しています。

そうすると、『普通借地権』と呼ぶ場合には狭義の意味においては新法である『借地借家法による借地権』を指しますが、広義の意味でとらえれば『旧法借地権』も含まれるといえます。

実務でいえば、「この土地は借地なんです」と顧客から言われた場合には、その『借地権』は旧法借地権かもしれないし、新法の借地借家法でいう借地権かもしれないということです。

この概念がカブっているということは大切なので覚えておきましょう。

結局、『借地』でのポイントは何か

借地には、これまでに記したような新法・旧法の違いのほか、定期借地の制度や建物譲渡特約付借地の制度、また建物買取請求権のことなど多種多様な論点があります。

ただ、一般に『借地』において何が重要なポイントなのかといえば、「更新」ではないかと思います。

旧法借地権の説明でも記したように、「貸した土地は半永久的に戻ってこない」という意識が今でも強いのは借地権の「更新」に関して貸し手にとって厳しい規定があるためといえます。

ちなみに、「更新」には大きく3つのパターンがあります。

  • 合意更新
  • 借地権者の請求による更新
  • 期間満了後、借地人が土地を使用し続けることによる更新

1つめの合意更新は貸し手と借り手が互いに「合意」して更新しますので問題ありません。

2つめの借地権者の請求による更新は、借地の上に建物がある場合に認められる制度であり、借り手である借地人が貸し手である地主に対して期間延長の請求をすることになります。

この場合、地主はその請求に対して遅滞なく異議を述べなければ従前と同じ条件で更新されてしまうことになります。

「遅滞なく異議を述べる」というのは、つまり、「更新する意思がありません」と意思表示することです。

3つめの期間満了後、借地人が土地を使用し続けることによる更新は、2つめと同様に借地の上に建物がある場合に認められる制度です。

前述の借地権者の請求による更新が行われずに借地権が既に消滅したとしても、そこからさらに借地人が土地を使用し続けた場合には、請求をしていなかったとしても更新されます。

そして、地主がその更新を阻止したいときは、同じく「遅滞なく異議を述べる」必要があります。

ただし、非常に重要なのは、仮に「遅滞なく異議を述べた」としてもそれが有効となるためには『正当事由』が必要となることです。

『正当事由』とは何か

ここで『正当事由』についてクローズアップする必要があります。

借地権の考え方の根底には、貸し手である地主と借り手である借地人との間にある力関係を調整したいというものがあります。

つまり、更新を当事者に任せてしまった場合、借地人よりは地主のほうが力関係は強いのが通常ですので、地主の一方的な都合で借地人が住居という社会生活を営む上での生活の本拠を奪われてしまうことになります。

それを防ぐために、法は地主側の都合で更新を拒絶するには『正当事由』を求めることにした訳です。

借地借家法(抄)

第6条

前条の異議は、借地権設定者及び借地権者(転借地権者を含む。以下この条において同じ。)が土地の使用を必要とする事情のほか、借地に関する従前の経過及び土地の利用状況並びに借地権設定者が土地の明渡しの条件として又は土地の明渡しと引換えに借地権者に対して財産上の給付をする旨の申出をした場合におけるその申出を考慮して、正当の事由があると認められる場合でなければ、述べることができない。

『正当事由』の具体的な例示は上記の借地借家法第6条の条文に適示されています。

読んでみてわかる通り、『正当事由』といっても画一的な条件が明示されている訳ではなく、あくまで複数の項目を総合的に比較衡量して決定される制度になっています。

特に、『借地権者に対しての財産上の給付』という点は重視される傾向にあり、これを実務では『立退料(たちのきりょう)』と呼んでいる訳です。

地主にとって『借地』がどれだけ長期間にわたって負担が大きいものかイメージがつかめるのではないでしょうか。

単に地代が収入として入ってくるという点だけで、安易に土地を他人に貸してしまうのは非常に大きな決断となるのです。

このように、『借地権』という概念は旧法から新法まで非常に広い範囲を指している言葉です。

また、実務の面では地主・借地人の双方に様々な経緯や事情があり非常に複雑な案件になることが多いです。

資格試験で人気の「宅建」に挑戦する人に聞いても、『借地権』と聞くと拒否反応を示す人が多いのも納得かもしれません。

『借地権』のことや、そういった権利の付いた不動産の売買などで困ったら「そうだ、行政書士に相談しよう」と気軽に声をかけてください。

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