保険と相続
相続に保険は有効という話よく耳にするのではないでしょうか?
今回は、この『保険』と『相続』との切っても切れない深い関係について記してみます。
細かい論点はおいておいて、まずは保険が相続に有効な理由を知りましょう。
第一に、保険金が相続税法上の「非課税財産」
第二に、保険金は原則として「遺産分割の対象とならない」
第三に、保険金は原則として「特別受益の持戻しの対象とならない」
具体的には、下記の通りとなります。
《 このページの目次 》
➀保険金は相続税法上「非課税財産」であるから
相続税法(抄)
【第12条】
次に掲げる財産の価額は、相続税の課税価格に参入しない。
【第12条5号】
相続人の取得した第三条第一項第一号に掲げる保険金(生命保険や損害保険
のこと)については、イ又はロに掲げる場合の区分に応じ、イ又はロに定める金額に相当する部分
イ 第三条第一項第一号の被相続人のすべての相続人が取得した同号に掲げる保険金の合計額が五百万円に当該被相続人の第十五条第二項に規定する相続人の数を乗じて算出した金額(ロにおいて「保険金の非課税限度額」という。)以下である場合 当該相続人の取得した保険金の金額
ざっくりとした計算式は、以下の通りです。
《 500万円 × 法定相続人の数 = 非課税限度額 》
仮に、亡くなった方に妻と子ども2人がいある場合で考えてみましょう。
その場合、500万円×3=1,500万円となります。
キャッシュ1,500万円が非課税の財産として手元に残るという点は複数の面から有利です。
仮に相続税を支払う必要があれば、その納税は原則としてキャッシュでの支払いとなります。
また、遺産分割をして不動産などを現物で取得した場合の代償金も原則としてキャッシュでの支払いです。
相続が発生してから必要となる資金は、どのような場合でも原則としてキャッシュが求められているので、保険金は非常に使い勝手の良い資金源といえるのです。
しかも、それが一定額まで「非課税」となれば尚更ですね。
➁保険金は原則として「遺産分割の対象とならない」から
そもそも、亡くなった方が死亡することによって発生した『保険金』は残された家族(相続人)にとって、どのような性質のものなのかという点は非常に重要です。
これだけ聞くと、「え?保険金も相続するんじゃないの??」という認識が強いかもしれません。
最三小判 昭40.2.2
~(省略)、保険金受取人としてその請求権発生当時の相続人たるべき個人を特に指定した場合には、右請求権は、保険契約の効力発生と同時に右相続人の固有財産となり、被保険者(兼保険契約者)の遺産より離脱しているものといわねばならない。~(省略)
ところが実は、判例によれば保険金(詳しくは『保険金請求権』という権利)は、亡くなった方が死亡した時点において具体的に確定する権利であって、亡くなった方が死亡するまでは「条件付き権利」または「その期待権」をもつだけであるとされ、その保険金請求権は保険契約の効力発生と同時に相続人(または、指定受取人)の固有財産となります。
保険金が保険金受取人(例:相続人)の原子取得する固有財産となるということは、例えば、相続財産が亡くなった方の債権者の引当財産となるところ、保険金は相続財産とならないばかりでなく相続人が相続放棄や限定承認を行う場合でも何らの影響も受けないということです。
そのため、亡くなった方が死亡して保険金(請求権)が発生しても、それ自体は固有財産であるので「原則として」相続人間での遺産分割の対象にもならないという結論になります。
亡くなった方からすれば、この保険金の法的性質は複数の場面で有利に働きます。
例えば、家業を継いでくれた長男に対して、不動産など遺産を多く相続させることになった場合に遺留分に基づく金銭請求があったとしても保険金を活用して支払うことが可能です。
また、不動産を現物分割できない場合でも保険金があれば代償金の支払い活用することも可能でしょう。
③保険金は原則として「特別受益の持戻しの対象とならない」から
特別受益とは、民法903条に定めのある事項です。
その趣旨は、共同相続人中に亡くなった方から「遺贈」や「贈与」を受けた者がいた場合に、相続財産にその遺贈や贈与で過去に得ていた価額も持戻した上で相続財産に含めて計算しましょうというものです。
基本的に、相続財産というのは亡くなった方が死亡した瞬間に存在した財産ですから、本来はその財産を基準にして相続人の間で分け方を決めることになります。
しかし、前述したように亡くなった方の生前中あるいは遺言等によって、ある特定の相続人だけが「遺贈」や「贈与」によって多額の財産を得たとしたらどうでしょうか?
これは共同相続人の間で明らかな不公平が生じているといえます。
「特別受益」というのは、その不公平を是正するための制度です。
最二小決 平16.10.29
~(省略)保険金受取人とされた相続人が取得する死亡保険金請求権又はこれを行使して取得した死亡保険金は、民法903条1項に規定する遺贈又は贈与に係る財産には当たらないと解するのが相当である。もっとも、上記死亡保険金請求権の取得のための費用である保険料は、被相続人が生前保険者に支払ったものであり、保険契約者である被相続人の死亡により保険金受取人である相続人に死亡保険金請求権が発生することなどにかんがみると、保険金受取人である相続人とその他の共同相続人との間に生ずる不公平が民法903条の趣旨に照らし到底是認することができないほどに著しいものであると評価すべき特段の事情が存する場合には、同条の類推適用により、当該死亡保険金請求権は特別受益に準じて持戻しの対象となる解するのが相当である。上記特段の事情の有無については、保険金の額、この額の遺産の総額に対する比率のほか、同居の有無、被相続人の介護等に対する貢献の度合いなどの保険金受取人である相続人及び他の共同相続人と被相続人との関係、各相続人の生活実態等の諸般の事情を総合考慮して判断すべきである。
保険金を受け取る側からすると、保険金が特別受益の持戻し対象にならない方が得です。
保険金は固有財産として取得した上に、相続財産についても法定相続分等により更に相続もできるからです。
しかし、判例ではあまりにも不公平が過ぎる場合には特別受益として持戻し対象となりますと一定の留保を認めているのです。
このように『保険』と一言にいっても多くの点で相続に影響していることがわかります。
相続に限らず、保険金請求についても行政書士がお手伝いするこができますので、いざの時には「そうだ、行政書士に相談しよう」と気軽に声をかけてください。