固定資産税の値上げ?空き家の大リスク
人口減、少子高齢化など様々な社会問題がニュースのたび繰り返し流れます。
その中でも大きな問題が「空き家」の問題ではないでしょうか。
本ブログでは「空き家」が社会問題として大きく取り上げられる理由やその対策を記したいと思います。
《 このページの目次 》
空き家の現状を把握する
「空き家」を知るにあたり、大切なのは「どのようなものを空き家と定義するか」です。
空き家と呼ぶので、基本的には「居住世帯のない住宅」を指すことは大前提です。
さらに進んで、居住世帯のない住宅を分解して考えると主に4パターンの住宅がありそうです。
以下、列挙します。
- 二次的住宅 ⇒ 別荘などたまに寝泊りする人がいる住宅
- 賃貸用の住宅 ⇒ 賃貸するために空き家になっている住宅(借り手募集中の状態)
- 売却用の住宅 ⇒ 売却するために空き家になっている住宅(買い手募集中の状態)
- その他の住宅 ⇒ 人が住んでいない住宅(居住世帯が長期不在の状態)
このような4パターンのうち、社会問題として指摘されている「空き家」とは上から4つ目のパターン「その他の住宅」です。
理由は所有者・管理者が不明な状態になりやすく、防災・衛生・景観等において地域住民の生活環境に影響を及ぼすことが懸念されるためです。
そのような「空き家」は日本国内でどれくらい存在するでしょうか?
国土交通省が発表する統計資料をみると、1988年~2018年までの20年間だけでも約1.5倍(576万戸→849万戸)と激増していることがわかります。
次に、空き家が増加し管理不全のまま放置することのリスクを考えます。
防災上の観点
通常、建物は人々が安全に住まうための物です。
しかし、建物が空き家となり管理がなされなくなると、その建物は急速に劣化します。
土台や柱、梁などが湿気で腐朽してしまったり、屋根や外壁が剥落、脱落してしまうことが考えられます。
そこに地震や台風といった自然災害が生じるとどうなるでしょうか?
管理不全で弱った建物は倒壊するでしょうし、それに伴って外壁などが周囲に崩落します。
また、建物に限らずブロック塀やフェンスなど外構の部分にも同じようなリスクがあります。
倒壊した残骸によって緊急車両が通る道路を塞いでしまい、被災者の救命活動の妨げにもなります。
自然災害が無いとしても、居住者が長期間にわたって不在となれば失火により火事が生じる可能性もあります。
「空き家」が防災上の観点からして社会問題とされる理由がよくわかります。
衛生上の観点
次に、衛生上の観点です。
イメージしやすいのは「ゴミ屋敷」ではないでしょうか。
ごみ放置や不法投棄があると、ネズミなどの害獣やハエなどの害虫まで多く発生することが予測できます。
また、排水管や浄化槽が破損したまま放置されてしまうと、汚物が流出したり悪臭が発生することになります。
建物の年代によっては、屋根材や外壁材は石綿に代表されるような人体にとって有害な発がん性物質を含みます。
それらが飛散したり暴露するとなれば近隣住民への衛生上、健康上の影響は非常に大きいといえます。
景観上の観点
次は、景観上の観点です。
景観上はイメージしやすいと思いますが、ようは「見た目」の問題です。
ほとんどの場合、古くて汚い街並みよりは、キレイで整然とした街並みを好みます。
景観は財産的な価値にも影響を及ぼすことがあります。
例えば、不動産屋さんに頼んで自宅を売却しようとした場合を想像してください。
買い手の候補となる人が自宅を見学しに来訪したとしたらどうなるでしょうか?
自宅の隣にある空き家が管理不全でボロボロの状態だとしたら、いかに自宅がキレイだとしても買い手は逃げてしまいます。
つまり、管理不全な状態の空き家がある、というだけでその町内全体ひいては市町村という街全体の価値にもマイナスである訳です。
空家等と特定空家等
このように、一言で「空き家」といっても多くの問題をはらんだ社会問題であることがわかります。
そこで国や地方自治体は「空き家」が管理不全のまま放置されないよう関係の法令や条例を定めてリスク顕在化を抑止することにしました。
まず、国は「空家等対策の推進に関する特別措置法」という法律を制定しました。
この法律によって、「空き家」のほか「特定空家」という定義をつくりました。
空家等対策の推進に関する特別措置法(抄)
第2条
この法律において「空家等」とは、建築物又はこれに附属する工作物であって居住その他の使用がなされていないことが常態であるもの及びその敷地(立木その他の土地に定着する物を含む。)をいう。ただし、国又は地方公共団体が所有し、又は管理するものを除く。
同条第2項
この法律において「特定空家等」とは、そのまま放置すれば倒壊等著しく保安上危険となるおそれのある状態又は著しく衛生上有害となるおそれのある状態、適切な管理が行われていないことにより著しく景観を損なっている状態その他周辺の生活環境の保全を図るために放置することが不適切である状態にあると認められる空家等をいう。
これによって、「空き家」という大きなグループの中で著しく管理不全なものを限定して「特定空家」としてラベル貼りができるようにしました。
この流れを受けて、日本全国の地方公共団体(区市町村)では続々と条例が制定され空き家対策がとられるに至りました。
空き家条例とは
ここで「条例」とは地域・エリア限定の「法律」と考えてもらって構いません。
〇〇市空き家条例というものがあったとしたら、その条例は〇〇市内だけで適用される法律です。
例として、私が在住する「銚子市」の条例を挙げてみましょう。
銚子市空家等の適切な管理に関する条例(抄)
第4条
空家等の所有者等は、周辺の生活環境に悪影響を及ぼさないように空家等の適切な管理に努めるとともに、特定空家等にならないよう常に空家等の適切な管理を行わなければならない。
銚子市の条例では、まず空き家の所有者に対して責務を明確に示しています。
結局のところ、空き家の管理不全は管理者が不在となるところから始まるためです。
銚子市空家等の適切な管理に関する条例(抄)
第10条第1項
市長は、法第14条第1項の規定により、特定空家等の所有者等に対し、当該特定空家等に関し、除却、修繕、立木竹の伐採その他周辺の生活環境の保全を図るために必要な措置(そのまま放置すれば倒壊等著しく保安上危険となるおそれのある状態又は著しく衛生上有害となるおそれのある状態にない特定空家等については、建築物の除却を除く。次項において同じ。)をとるよう助言又は指導をすることができる。
その上で、「特定空家」が発生した場合には市長からその所有者に対して「助言」「指導」をする権限を与えました。
これによって、行政の側から所有者に対して改善へ向けての働きかけができます。
銚子市空家等の適切な管理に関する条例(抄)
第10条第2項
市長は、前項の規定による助言又は指導をした場合において、なお当該特定空家等の状態が改善されないと認めるときは、法第14条第2項の規定により、当該助言又は指導を受けた者に対し、相当の猶予期限を付けて、除却、修繕、立木竹の伐採その他周辺の生活環境の保全を図るために必要な措置をとることを勧告することができる。
助言や指導はイメージするとすれば改善を「お願いする」という程度のものです。
それに対して、何ら改善がないという場合に次の方法として「勧告」があります。
「勧告」は助言や指導よりも一歩進んだ意味合いを含みますので、「お願い」というよりも「早く改善しなさい」というイメージになります。
この「勧告」の段階まで進む場合には、ある程度の強制力を持たせる必要があるので銚子市では「固定資産税等の住宅用地の特例」を解除するというペナルティを用意しています。
通常、小規模住宅用地(200㎡以下)は固定資産税・都市計画税の計算の基礎となる「評価額」をそれぞれ6分の1、3分の1にするという軽減特例が適用されています。
これは空き家であっても同じなのですが、「勧告」を受ける空き家については特例から外されてしまいます。
こうなると、所有者は土地の固定資産税・都市計画税が急に6倍、3倍に跳ね上がるということになりますから間接的に空き家への対応を強制されることになる訳です。
銚子市空家等の適切な管理に関する条例(抄)
第10条第3項
市長は、前項の規定による勧告を受けた者が正当な理由がなくてその勧告に係る措置をとらなかった場合において、特に必要があると認めるときは、法第14条第3項の規定により、その者に対し、相当の猶予期限を付けて、その勧告に係る措置をとることを命ずることができる。
第10条第9項
市長は、法第14条第3項の規定により必要な措置を命じた場合において、その措置を命ぜられた者がその措置を履行しないとき、履行しても十分でないとき又は履行しても同項の期限までに完了する見込みがないときは、法第14条第9項の規定により、行政代執行法(昭和23年法律第43号)の定めるところに従い、自ら義務者のなすべき行為をし、又は第三者をしてこれをさせることができる。
仮に、勧告にも従わない、もしくは十分な対応をしなかったと判断された場合には、市長は「命令」することができます。
命令は強制なので従わなかっただけで罰則(銚子市は50万円の罰金)が適用されます。
それでもなお、特定空家の改善命令に従わなかった場合、市長は最終的に「行政代執行」を行うことができます。
行政代執行については、別ブログで詳述していますが行政が所有者に代わって「勝手に」空き家を取り壊すこともできる非常に強力な法的強制です。
ちなみに、行政代執行にかかった費用の全額は税金の滞納と同じ扱いで所有者から徹底的に徴収されますので逃げられません。
大切な地域の連携
このように、空き家を放置した場合のペナルティばかり説明してきました。
しかし、重要なことは地域の中で相互の連携することで空き家(中でも特定空家)の発生を未然に防ぐような住民の意識を醸成することです。
空き家の問題の端緒は、高齢単身者が亡くなることによる相続人の不在、所有者が不明で管理不全の連絡が取れないこと等が多いです。
そのため、法務省では民法や不動産登記法を改正して、相続登記を義務化するなど本格的な対策に乗り出しました。
地方公共団体では地域の町内会と連携して空き家の情報を密に収集したり、不動産協会などと連携して空き家バンクを活用した流通システムを提供しています。
行政書士は地域の社会問題を相談するための身近な役割を担っています。
空き家のことでお悩みであれば「そうだ、行政書士に相談しよう」と気軽に声をかけてください。