不利益処分と聴聞手続き

世の中には様々な場面で行政から「許可」や「免許」が与えられることで可能となる仕事があります。

身近な例でいえば、「飲食店」なら「飲食店営業許可」が必要です。

レストランやカフェなどですね。

ほかにも「不動産屋」なら「宅地建物取引業免許」が必要です。

今回は、こんな「許可」や「免許」が取り消されてしまう事態が起きたらどうするか?について記してみたいと思います。

許可や免許は一生有効なのか?

さて、上述のように「許可」や「免許」を取得したあと、それらは長年にわたって有効なのでしょうか?

実際は、「許可」や「免許」の種類によっては〇年ごとに更新というものが多いと思われます。

そんな「許可」「免許」で仕事をしていたら、ある日突然に行政から「許可」「免許」を取り消す!と言われてしまったらどうしますか?

例示したお店でいえば、飲食店は食品を提供することができません。不動産屋は土地を売買することができなくなります。

どちらにしても、「許可」「免許」がその仕事の生命線であることがほとんどですからツブれてしまうかもしれません。

行政が「許可」や「免許」を後から取消す行為を「不利益処分」と呼びます。

行政手続法(抄)

第2条

この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。

四 不利益処分 

行政庁が、法令に基づき、特定の者を名あて人として、直接に、これに義務を課し、又はその権利を制限する処分をいう。ただし、次のいずれかに該当するものを除く。

 事実上の行為及び事実上の行為をするに当たりその範囲、時期等を明らかにするために法令上必要とされている手続としての処分

 申請により求められた許認可等を拒否する処分その他申請に基づき当該申請をした者を名あて人としてされる処分

 名あて人となるべき者の同意の下にすることとされている処分

 許認可等の効力を失わせる処分であって、当該許認可等の基礎となった事実が消滅した旨の届出があったことを理由としてされるもの

つまり、行政は法律のルールによって義務を課したり、その人の権利を制限するという権限があるんです。

法律の中では「許可」「免許」を与える条件が示されていますが、それと同時に「許可」「免許」を停止したり剥奪する条件も示されています。

行政はそのルールに則り、不利益処分を行うことで「許可」「免許」を後から取消すことがあるのです。

不利益処分は決定したら覆せないのか?

そんな行政の不利益処分ですが、法律に則っているから一切反論はできないのでしょうか?

答えは No! です。

実は、法律に基づく不利益処分をする場合には、「行政手続法」という法律によって手続きルールが定められています。

それが、「聴聞」「弁明の機会の付与」という2つの手続きです。

行政手続法(抄)

第13条1項

行政庁は、不利益処分をしようとする場合には、次の各号の区分に従い、この章の定めるところにより、当該不利益処分の名あて人となるべき者について、当該各号に定める意見陳述のための手続を執らなければならない。

 次のいずれかに該当するとき 聴聞

 許認可等を取り消す不利益処分をしようとするとき。

 イに規定するもののほか、名あて人の資格又は地位を直接にはく奪する不利益処分をしようとするとき。

 名あて人が法人である場合におけるその役員の解任を命ずる不利益処分、名あて人の業務に従事する者の解任を命ずる不利益処分又は名あて人の会員である者の除名を命ずる不利益処分をしようとするとき。

 イからハまでに掲げる場合以外の場合であって行政庁が相当と認めるとき。

 前号イからニまでのいずれにも該当しないとき 弁明の機会の付与

聴聞とは?

不利益処分のうち非常に重い処分をするときに行うのが「聴聞」の手続きです。

許認可等を取り消す不利益処分をしようとするときが代表的です。

「許可」「免許」は許認可等の代表格です。

聴聞の手続きは予め行政が定める期日に行われる旨を書いた書面によって通知されます。

聴聞の期日に行政へ出頭して口頭で意見を述べたり、行政に対して証拠書類や証拠物を提出することができます。

これによって、言い分が認められれば不利益処分がなされずに済むこともあります。

イメージは行政の一室で行われる簡易的な裁判のようなものです。

自分としては「許可」「免許」を取り消されては困りますから、行政が言っている根拠を覆す証拠を出していくことになります。

弁明の機会の付与とは?

比較的に軽い不利益処分を行う場合の手続きが「弁明の機会の付与」です。

この手続きは原則として口頭ではなく、書面を提出することで行われます。

証拠書類や証拠物を提出することができるのは聴聞と一緒です。

行政を相手に自分で行わなければならないのか?

さて、こんな「聴聞」と「弁明の機会の付与」ですが、簡易的とはいえ相手は行政となります。

基本的には全て法律論でのやり取りをしなければなりません。

仮に、聴聞の場で感情的な主張を繰り返しても相手にしてもらえません。

例えば、

「許可が取り消されたら店がツブれてしまう!」

「家族が野垂れ死ぬ!」

などと行政の担当者を責めたところで何も結果は変わらないということです。

行政が不利益処分をしようとしている根拠が何なのか?

どの法律のどの要件によって自分の権利が不利益処分を受けようとしているのか?

これを正確に見極めて的確な反論をするのは大変な苦労があるはずです。

聴聞・弁明の機会の付与は代理ができる

そんなとき、役に立つことができるのが「行政書士」です。

行政書士法(抄)

第1条の3

行政書士は、前条に規定する業務のほか、他人の依頼を受け報酬を得て、次に掲げる事務を業とすることができる。ただし、他の法律においてその業務を行うことが制限されている事項については、この限りでない。

 前条の規定により行政書士が作成することができる官公署に提出する書類を官公署に提出する手続及び当該官公署に提出する書類に係る許認可等(行政手続法(平成五年法律第八十八号)第二条第三号に規定する許認可等及び当該書類の受理をいう。次号において同じ。)に関して行われる聴聞又は弁明の機会の付与の手続その他の意見陳述のための手続において当該官公署に対してする行為(弁護士法(昭和二十四年法律第二百五号)第七十二条に規定する法律事件に関する法律事務に該当するものを除く。)について代理すること。

このように行政書士は行政に対する書類作成のプロとして、行政から不利益処分を受けようとする方を聴聞や弁明の機会の付与の場で守ることが法定されています。

ちなみに、よく「非弁行為だから弁護士でない行政書士には聴聞ができない」といった運用が今でもあるように聞きますが、これは全くの誤りです。

「非弁行為」というのは、いわゆる弁護士法72条のことで訴訟や仲裁のほか行政庁に対する審査請求など不服申し立てにかかる代理行為には弁護士以外は携わってはいけないという規制を指します。

しかし、行政書士法のかっこ書き記述にある除外を広く読んで、聴聞で予定処分を争わないことや、事実主張のみで法解釈主張をなしえないという解釈はいき過ぎていると考えられています。(「行政書士法コンメンタール12版」兼子 仁)

もしも、一生懸命にお仕事をする中で、行政の間違いによって不利益処分を受けるようなことがありましたら「そうだ、行政書士に相談しよう」と気軽にお声がけください。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA