本当に困った!行政代執行とは?
日ごろ、街で過ごしていると困ったことがあるものです。
何万人もの市民が同じ地域で生活していますから、中には変わった人もいるかもしれません。
ある市民がルールを守らないことで他の市民へ迷惑をかけることもあるでしょう。
そんな困った!を解決する強力な手段として、「行政代執行」があります。
「行政代執行」とは一体どのような手続きなのでしょうか?
本ブログでは、事例として社会問題になっている「空き家」について取り上げます。
「空き家」とは?
特に地方都市に多いのが「空き家」の問題です。
少子高齢化で親元を離れた子世帯が地方に戻らないことが多くなっています。
そうなると、親世帯がいなくなった後に地方に残された家はどうなるでしょうか?
新しくてキレイなら借りてくれる人もいるかもしれませんが、そうでもなければ「放置」されることも多いでしょう。
その放置された家たちが「空き家」となっていきます。
国(政府)としても「空き家」問題は大変大きな社会課題として認識しています。
そのため、「空家対策の推進に関する特別措置法」という法律まで成立させて対応にあたっているほどです。
同法では「空き家」について定義をしています。
空家等対策の推進に関する特別措置法(抄)
第2条
この法律において「空家等」とは、建築物又はこれに附属する工作物であって居住その他の使用がなされていないことが常態であるもの及びその敷地(立木その他の土地に定着する物を含む。)をいう。ただし、国又は地方公共団体が所有し、又は管理するものを除く。
同条第2項
この法律において「特定空家等」とは、そのまま放置すれば倒壊等著しく保安上危険となるおそれのある状態又は著しく衛生上有害となるおそれのある状態、適切な管理が行われていないことにより著しく景観を損なっている状態その他周辺の生活環境の保全を図るために放置することが不適切である状態にあると認められる空家等をいう。
つまり、「空家等」とは建物やその工作物であるブロック塀・物置・看板などのほか、立木などその土地に定着しているものすべてを指します。
さらに、同法は「空家等」の中でも特に保安上危険となるものや衛生上有害なものを「特定空家等」と定義しています。
管理するのは所有者(管理者を含む)
そんな「特定空家等」を放置するのは市民生活にとって脅威です。
万が一、倒壊してしまったら通行人からすれば命の危険もあり得ます。
本来なら、「特定空家等」になる前に所有者等は日ごろから維持管理する責務があります。
そのため、空家等対策の推進に関する特別措置法では、市町村の責務として努力義務(同法第3条)を課しています。
そこで、市町村では同法に基づく「条例」を独自に制定して「特定空家等」への対策を実施しています。
条例で何ができるか?
「条例」は大雑把には「地域限定版の法律」と思ってもらうとわかりやすいでしょう。
憲法と地方自治法によって各市町村ごとに条例を制定する権限が定められています。
条例の制定は「各市町村ごと」ですから、市町村ごとに条例の内容は多少の差異があります。
おおむね下記の流れで特定空家等の所有者等へ働きかけをすることになります。
- 情報提供
- 市民から市町村へ「空家等」の情報が提供される
- 実態調査・立入調査
- 市町村は情報提供を基に実態を調査したり、必要があれば立ち入り調査もできる
- 適切な管理の促進・必要な措置を命じる
- 市町村は所有者等に対して、特定空家等についての助言・指導・勧告を行ったり必要な措置を命じる
- 行政代執行法に基づき代執行する
- 所有者等が正当な理由なく措置を講じない場合、市町村が代わりに必要な措置を行う
このように、問題のある特定空家等であっても「即、問題解決」とはいかず、かなり多くの時間と労力をかけて所有者等へ働きかけをします。
しかし、それでも正当な理由なく放置の状態が継続した場合には、所有者等ではなく市町村自ら法に基づいて「代執行」できるということになります。
伝家の宝刀!行政代執行
ある個人が所有する物を他人が勝手に取り壊したり、除却・処分することは本来は絶対に認められません。
近現代の法治国家では「所有権絶対の法則」というルールがその根幹にあるからです。
しかし、所有権が絶対だからといって何でもかんでも所有者等の思い通りにしてしまったら「特定空家等」の問題は全く解決しません。
そこで登場するのが、「行政代執行法」という法律です。
行政代執行法(抄)
第2条
法律(法律の委任に基づく命令、規則及び条例を含む。以下同じ。)により直接に命ぜられ、又は法律に基づき行政庁により命ぜられた行為(他人が代ってなすことのできる行為に限る。)について義務者がこれを履行しない場合、他の手段によってその履行を確保することが困難であり、且つその不履行を放置することが著しく公益に反すると認められるときは、当該行政庁は、自ら義務者のなすべき行為をなし、又は第三者をしてこれをなさしめ、その費用を義務者から徴収することができる。
この規定があることにより、ある人がいかに所有権を主張して特定空家等を放置しようとしても不可能になります。
よく法律用語では「公共の福祉」と表現されますが、ようは他人に迷惑をかけない限りにおいてのみ所有権が絶対的に認められるということです。
しかも、行政代執行法では市町村が所有者等に代わって行った処理経費・費用は、あとから所有者等へ請求できるというルールになっています。
もし支払わなかったら税金の滞納と同じく、給与や不動産など財産的な価値のあるものを差し押さえて徴収することも許されている強力な権限です。
個人のワガママを税金で処理するのは不公平ですから当然ですね。
このように行政手続きには本当に多くの法律や条例が関係しています。
もし日ごろ何か困ったことがあれば、「そうだ、行政書士に相談しよう」と気軽にお声がけください。