証拠能力と書類
行政書士は書類を作成するプロです。
これは別ブログでも書いた通り、行政書士の法定独占業務の根幹といえます。
再度おさらいでザッと書くと、行政書士が作成する書類は下記の3分野といえます。
- 官公署に提出する書類
- 権利義務に関する書類
- 事実証明に関する書類
いわゆる士業の中で、行政書士は何をしている職業なのかボンヤリしていると思われがちです。
それは、「書類の作成」という何とも広すぎる分野を専門としているからかもしれません。
でも、あえて本ブログでは「書類の作成」というものを専門にする士業がなぜ必要なのか?について焦点をあてて記したいと思います。
公文書と私文書
まず、「書類」には主に2種類、公文書と私文書があります。
公文書は字のごとく、その書類の作成名義が公務員であるものを指します。
身近な例でいえば、市役所で職員の方が発行してくれる各種の証明書などがあります。
私文書は公文書の逆ですから、私人(一般の人)がその書類の作成名義であるものを指します。
私文書の範囲は大変広いので、おそらく皆さんの身の回りにある書類のほとんどは私文書だと思われます。
身近な例では、私人同士で交わす契約書などがあります。
なぜ書類を作成するのか?
わかりやすい例として、「契約」を挙げましょう。
本来、「契約」に書類は必要ありません。
意外に思うかもしれませんが、「契約」も単に約束の延長線にある行為なので口頭でも良いとされています。
民法(抄)
第522条2項
契約の成立には、法令に特別の定めがある場合を除き、書面の作成その他の方式を具備することを要しない。
このように、民法ではわざわざ「書面の作成を要しない」とまで書いてあるんです。
大事なのは、「それなら、なぜ書類を作成するのか?」です。
モメ事の解決は裁判で
「契約」をするにあたり、「書類を作成せずに」口頭で済ませる場合を想定してください。
その約束事が小さいうちは何も起きないかもしれません。
でも、不動産の売買のように多額の金銭がやり取りされるような約束事となるとどうでしょうか?
場合によっては、私人同士でモメ事が起きて紛争になることも予想できると思います。
ではモメ事・紛争を解決するにはどうするのでしょうか?
当初は相手と相談するのでしょうが、終局的に解決するには、もはや裁判するしかありません。
裁判ってどうやって進む?
いざ、裁判となった場合に実務ではどのように進むのでしょうか?(民事訴訟とする)
ざっと流れを書くと下記の通りです。
訴えの提起
↓
訴訟要件の審査
↓
口頭弁論期日の決定
↓
口頭弁論の準備(争点および証拠の整理手続き等)
↓
第一回口頭弁論
↓
第○○回口頭弁論、、、
↓
和解や判決へ
概要としては、このように進んでいくことになります。
また、裁判で訴えを起こすには、訴訟物と呼ばれる「権利」を特定します。
「代金支払請求権」とか「土地明渡請求権」とか権利はいろいろです。
裁判所(裁判官)としても、訴訟を提起した原告が被告に対して何を求めているのかがハッキリしなければ、裁判で判断すべき対象がわからず終局的な解決を図ることができないからです。
そして、その訴訟物となる「権利」が存在するのかしないのか、という点について裁判で原告・被告が互いに主張を繰り返していきます。
要件事実・事実認定まで考える書類
こうして原告・被告が自分にとって有利に働く法律効果を得るためには、自分自身が法律(の条文)の規定する要件を満たしていることを法廷で証明しなければいけません。
そもそも、モメ事が起きるまでの経緯の中では当事者である原告⇔被告の間では様々な出来事があったはずです。
それら出来事の中から証明の対象となる主な事実のみを抜き出して証明していくことになります。
それらを「要件事実」とか「主要事実」といい、裁判所(裁判官)は事実認定に軸足を置いて訴訟指揮を執ります。
なぜなら、裁判所(裁判官)は全くの第三者であって、原告が正しいのか被告が正しいのか知っているはずがありません。
私人同士が交わした「契約」に至る経緯すら全く知らない訳ですから当然ですね。
そこで大切なのが、実は「書類」なのです。
書類という証拠の重要性
裁判所(裁判官)が事実認定をするには、結局のところ「証拠」を基にするしかありません。
「証拠」には人証と物証がありますが、書類は物証の1類型です。
私文書は私人同士で交わされる文書ですから、書式や内容は基本的にお互いの自由です。
しかし、こと裁判となれば「証拠」としての能力が求められることになります。
行政書士が「書類作成のプロ」である存在意義がここにあります。
裁判となれば、実務を担当するのは皆さんご存知の弁護士となります。
ここで気づいた方もいるかもしれませんが、通常、弁護士さんが訴訟(裁判)をするのはモメ事が起きた「後」になるということです。
ですから、どんなに有能な弁護士であっても過去に遡って「証拠」として能力のある書類、裁判所に提出しても不備の無い契約書を作ることは不可能なのです。
そして、当然ながら「証拠能力の無い」書類で訴訟(裁判)に勝つことは極端に難しくなります。
行政書士は予防法務の専門家であると言われます。
それは弁護士ほど敷居が高くなく身近な法規相談の相手として地域に密着した法務に取り組めるからです。
だからこそ、後日の紛争を予防するという高度な職業倫理をもった行政書士にこそ「書類の作成」を任せる最大のメリットがあるといえます。
契約書をはじめとして大事な書類を作成したいと思ったら、「そうだ、行政書士に相談しよう」と気軽に声をかけてください。