相続と銀行預金
『口座凍結』というキーワード聞いたことあるのではないでしょうか?
お亡くなりになった方の銀行口座から預金が引き出せなくなる状態のことですね。
今回はこの『口座凍結』について詳しく記していきたいと思います。
あまり考えたことはないかもしれませんが、今回は「銀行の立場」からみた相続手続きとして考えていきましょう。
銀行が預金者の死亡を知ったら、実際にはどのような対応をしているのでしょうか?
もし、預金者が生前に「自動引き落とし」のように月々支払いの設定をしていたとしたら、それはどうなるのでしょうか?
こう考えると意外に『口座凍結』と一言にいっても想像が難しいものです。
口座凍結は二重払いを避けるため
銀行が預金者の死亡を知ると、まず口座凍結を行います。
口座凍結の意味は、相続人等による一定の書面に基づく払戻請求を除いて、『一切の者への払戻しを防止する措置』をとることです。
では銀行は、なぜ『口座凍結』を行うのでしょうか?
それは、主に「二重払いを回避するため」です。
「二重払い」というのは、銀行が一部の相続人に対して相続分を超過する額の払戻しをした場合に、他の相続人からの請求に対してもさらに払戻しを強いられてしまうことを指します。
そのため、銀行は直ちに全店での入出金停止措置を取るということになります。
また、二重払いのほかにも銀行が口座凍結を行う理由があります。
それには最高裁判所による判例や決定が法的に重要な意味を持ちます。
最大決平28.12.19 民集70巻8号2121頁
~(途中省略)
共同相続された、普通預金債権、通常貯金債権及び定期貯金債権は、いずれも、相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されることはなく、遺産分割の対象となるものと解するのが相当である。~(以下省略)
従前は、預金債権は可分債権であると考えられ、預金債権は相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されるという内容の最高裁判例が存在していました。
そのため、各共同相続人は銀行が共同相続人のうちの1人の単独での払戻請求に対して応じない場合には、裁判での法定相続分払戻請求によってその持ち分に応じた払戻しを受けることができました。
しかし、本決定により、銀行は単独の相続人からの払戻請求に応じることなく、別途、遺産分割協議書・相続人全員の同意書などを払戻しの必須条件とすることになりました。
この最高裁判所大法廷の判例変更は相続業務とりわけ銀行での手続き業務において大きな変化を与えたのです。
また、このほか銀行は公知の事実(例:有名人が亡くなったニュース等)や税務署・他の金融機関等からの連絡によって預金者の死亡を知った場合も即時『口座凍結』を実施します。
遺産分割前における預貯金の払戻し制度
実務的には、この最高裁判所の決定によって相続人が法定相続分のみだとしても一切の払戻請求ができなくなり、生活上の不利益が生じてしまいます。
それを解消するため、改正相続法においては預貯金の一部について単独の相続人による『仮払制度』を創設することで一部の払戻しが可能となりました。
民法(抄)
【第909条の2】
各共同相続人は、遺産に属する預貯金債権のうち相続開始の時の債権額の3分の1に第900条及び第901条の規定により算定した当該共同相続人の相続分を乗じた額(標準的な当面の必要生計費、平均的な葬式の費用の額その他の事情を勘案して預貯金債権の債務者ごとに法務省令で定める額を限度とする。)については、単独でその権利を行使することができる。この場合において、当該権利の行使をした預貯金債権については、当該共同相続人が遺産の一部の分割によりこれを取得したものとみなす。
条文が長いためわかりにくくなっていますが、改正相続法による預貯金の払戻制度の創設は以下の算定式に置き換えることができます。
【 〇〇銀行 普通預金 × 3分の1 × 法定相続分 = 払戻し可能額(上限150万円) 】
例)A銀行に普通預金300万円を預けていた人が亡くなり、妻と子1人が相続人の場合
300万円 × 3分の1 × 2分の1 = 50万円を払戻し可能
このように、本制度が創設されたことで、被相続人の死亡直後に必要となる費用(例:葬儀費用)のうち一定程度の払戻しは可能となり、相続人の生活に支障がないように配慮がなされています。
自動引落とし(口座振替)の取扱い
では、公共料金等、一定期間継続して行われることが予定されている支払はどのように取扱うのでしょうか?
口座振替は法的に考えると、銀行と生前の預金者との間での事務の委託であり『準委任』と呼ばれる行為です。
準委任も委任契約に含まれますが、契約上は通常、委任者が死亡した場合は契約も終了します。
そうすると、銀行としては本来は下記のような対応を求めることが考えられます。
①以後の口座振替を終了させる
②相続人全員による依頼書を得た上で口座振替を継続する
③相続人との間で振替契約を締結し直す
ただ、実際には銀行によって対応に差異があるものと思われます。
銀行によっては、預金者の便宜を考慮して一定期間だけ口座振替を継続したり、振り替えるべき債務が存在する場合には委任者が死亡後も口座振替を継続させる意思があるものと推定することもあり得ます。
しかし、いずれにしても必要最小限度であり、おおむね1カ月程度の対応継続であると考えておくことが望ましいでしょう。
預金者が亡くなったとき銀行がどのような考えで対応をしているのか少しイメージできたのではないでしょうか?
実は、相続の手続きをするための相談で、相談者の方々に一番多い意見として「銀行手続きの煩雑さ」が挙げられます。
それは、銀行という企業が法的なリスクを一切負わないように厳密な払戻対応に徹しているためです。
私たち行政書士は相続の手続き専門家として、このような困った事案にも迅速に対応をしています。
銀行での相続手続きに迷ったら「そうだ、行政書士に相談しよう」と気軽に声をかけてください。