遺言を書きやすくー "遺言書保管法" の基礎知識

遺言書の種類は3種類あります。

そして、実質的にその内2種類の遺言が世の中にある遺言のほとんどを占めています。

それが、『自筆証書遺言』 と 『公正証書遺言』 です。

今回は『自筆証書遺言』に焦点を当てて法改正も含めて記します。

遺言の作成についての法改正

近時、『自筆証書遺言』に関連して2点の法改正がありました。

その1つが、自筆証書遺言の方式緩和です。

自筆証書遺言は、旧民法の規定では『自筆』という点において非常に厳しいものでした。

遺言者は、その遺言の『全文』を自書する必要があり、例えば財産目録までも自書を求められていました。

高齢化に伴い、社会では遺言の利用を促進して遺産分割等での紛争を防止する必要があります。

ですが、上記のように『全文を自書』するとなると大変な負担となり、遺言書を作成する側の気力が削がれてしまうことになりかねません。

そこで法改正により、『自筆証書遺言の方式緩和』が図られるに至りました。

民法(抄)

【第968条1項】

自筆証書によって遺言をするには、遺言者が、その全文、日付及び氏名を自書し、これに印を押さなければならない。

【同条2項】

前項の規定にかかわらず、自筆証書にこれと一体のものとして相続財産の全部又は一部の目録を添付する場合には、その目録については、自書することを要しない。この場合において、遺言者は、その目録の毎葉に署名し、印を押さなければならない。

このように、これまで『全文』を自書するよう求めていた旧民法の規定のうち、財産目録の方式については『自書でなくても良い』とされました。具体的には、

  • 遺言者本人がパソコン等を用いて作成した財産目録を添付する
  • 遺言者以外の者が作成した財産目録を添付する
  • 不動産の登記事項証明書や預貯金通帳の写し等を財産目録として添付する

という取り扱いが可能となります。

これまでの『全文を自書』と比べて格段に遺言者の負担が軽くなったと言えるでしょう。

なお、財産目録の毎葉に署名押印することは必要となりますので忘れずにしましょう。

ちなみに、『毎葉』の意味としては財産目録の全ての用紙を意味します。

そのため、例えば表裏の双方に記載がある財産目録であれば、その表裏の双方に署名押印しなければなりません。

逆に言えば、表しか記載がない財産目録や登記事項証明書であれば裏面に署名押印しても構いません。

遺言の押印あれこれ

一般に、遺言書のような法律的な文書には『実印』が使用されることが多いです。

しかし、法的には遺言書本文に押印されたものと同一の印章であればよく、いわゆる『認印』であっても差し支えありません。

押印は財産目録等の各用紙にされれば足りますので、契印をする必要はありません。

ただ、遺言者のお考えによって遺言書全体の一体性を確保したいという要望もあるかもしれません。

その場合は、契印をすることも差し支えありませんし、同一封筒にいれて封緘したり、編綴しても構いません。

遺言を預けておく新制度!

そしてもう1つは、遺言書保管法による新制度創設です。

前述したように、自筆証書遺言は遺言者にとっての負担がある程度は低減されました。

加えて、もともと自筆証書遺言の特性として特別の費用もかからず、手軽で自由度の高い制度でした。

しかし一方で、その作成や保管について遺言者のほかに誰一人関与しません。

そうなると、相当の確率で下記のような不都合が生じてしまう結果となります。

  • 遺言者が死亡したとき誰も遺言書の存在に気付かないまま遺産分割が行われてしまう
  • 遺言書の真正や遺言内容をめぐって望まない紛争が生じてしまう

こういった現状に対応するべく、遺言書保管法が制定された経緯があります。

遺言書保管法では主に下記のようなことが定められました。

  • 自筆証書遺言に限り、法務局を保管場所とする保管制度を創設する
  • 遺言書保管官が申請のあった自筆証書遺言について、方式に関する外形的な確認を行いリスクを軽減する
  • 遺言書は遺言書保管官が確認をするため、無封の状態として申請しなければならない
  • 遺言書の用紙の大きさ等は法務省令で規定されたものとしなければならない
  • 申請できる法務局は、遺言者の住所地・本籍地・遺言者の所有する不動産の所在地のいずれかに該当する場所のみ
  • 保管の申請は、遺言書を作成した遺言者本人のみとし、本人の出頭を要する

このように、遺言書保管のための申請においては公的機関である法務局が本人確認を徹底し、また遺言書そのものの外形的な確認まで行われる。

こうすれば、少なくとも遺言書の真正が疑われる確率も軽減でき、方式が間違っていることで遺言書が無効とされる確率も激減するものと思われます。

そして、遺言者以外の者は遺言者が生存中の間には遺言書の情報を閲覧することはできません。

遺言者の死後はどうするか

相続人、受遺者、遺言執行者等の相続関係人は、遺言者が死亡している場合に限り、遺言書保管ファイルに記録されている事項を証明した書面の交付を請求することができます。

また、本来は自筆証書遺言の場合には家庭裁判所での検認を受けなければなりませんでしたが、遺言書保管法によって法務局に保管される遺言書は検認も不要です。

前述の相続関係人のうち誰か1人が保管された遺言書情報を請求した場合、その他の相続人、受遺者及び遺言執行者にも法務局から遺言書保管の旨が通知されます。

3,900円のお手軽な遺言

結論として、一定のお金はかかりますが政令で定められた手数料のみとなります。

基本的には、申請1件につき3,900円の負担となります。

公正証書遺言と比べて、金銭的な負担が軽いことは本制度の創設前と実質的には変わりがないと言えます。

遺言の内容まではチェックしてもらえない法務局

このように『自筆証書遺言』に関する法改正や新制度の創設によって、『遺言』は遺言者にとって利用しやすくなりました。

ただ、やはり『遺言』はいざ必要となる時には「自分がこの世にいない」という前提で作成しておかなければなりません。

そうなると、「うっかり間違えていた」となっても後で訂正することもできません。

やはり、プロである専門家へ相談しながら遺言の起案をお願いすることが重要です。

遺言についてのお考えの際は「そうだ、行政書士に相談しよう」と気軽に声をかけてください。

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