改正相続法!配偶者居住権

一般に、相続に関する民法の記述部分を指して「相続法」と呼びます。

この相続法は昭和55年(1980年)以来、実質的な見直しはされてきませんでした。

しかし、平成30年(2018年)7月6日に民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律が成立しました。

これが、最近になって騒がれている「改正相続法」のことになります。

相続法が改正に至った背景には、日本社会の高齢化が進展したことや相続開始時点での配偶者の高齢化とその保護の必要性があります。

本ブログでは特に、「配偶者」に関わる相続法の改正点に焦点を当ててみたいと思います。

配偶者について相続法が改正

「配偶者」と表現すると何だか堅苦しいですが、早い話が「夫」や「妻」のことです。

婚姻関係にある者からみた場合の相手方ということになります。

その配偶者を対象とした新たな権利を創設したものが配偶者居住権です。

配偶者居住権の制度は、残された配偶者が引き続き住み慣れた居住環境で生活できるように創設されました。

従前はこの権利が存在しませんでしたから、相続財産である不動産(建物)については相続人全員の合意の基で遺産分割協議を成立させなければ配偶者がそのまま同じ家(建物)に住み続けることはできませんでした。

これだけを聞くと、単に残された家族が仲良く合意してあげればそれで良いじゃないか、という風にも思えます。

しかし、現実の社会はそう簡単にはいかない事例も出てきます。

例えば、ある人が亡くなったとして、その人の配偶者は当然ながら同居していることがほとんどです。

そして、その亡くなった方に再婚した経緯があって、前妻との間に子どもがいたとしたらどうでしょうか?

残された配偶者と前妻との間の子どもは互いに相続人にはなりますが、面識がほとんど無い赤の他人です。

このような関係性の中で遺産分割協議を「仲良く」することができるかという点は問題になりがちなのです。

場合によっては配偶者が泣く泣く自宅を追い出されてしまうという状況もあった訳です。

そのため、改正相続法では配偶者居住権という特別な権利を創設して配偶者を保護する制度としました。

民法(抄)

【第1028条1項】

被相続人の配偶者は、被相続人の財産に属した建物に相続開始の時に居住していた場合において、次の各号のいずれかに該当するときは、その居住していた建物の全部について無償で使用及び収益をする権利を取得する。ただし、被相続人が相続開始の時に居住建物を配偶者以外の者と共有していた場合にあっては、この限りではない。

➀遺産の分割によって配偶者居住権を取得するものとされたとき。

➁配偶者居住権が遺贈の目的とされたとき。

配偶者居住権は、残された配偶者が相続開始の時に被相続人が所有する建物に居住していた場合に成立します。

また、配偶者に配偶者居住権を取得させる旨の『遺産分割』『遺贈』『死因贈与』がされたことを成立要件としています。

なお、配偶者居住権を設定する対象の建物が第三者との「共有」状態であると成立させることができませんので注意が必要です。

あくまでも、被相続人が完全に所有していた建物が対象です。

これは配偶者居住権が、もともと『所有権=使用収益する権利+管理処分する権利』であるうち、使用収益する権利のみを分離したものなので、他に共有者がいる場合にその共有者がもつ所有権を侵害することは避けなければならないからです。

ただ例外的に、被相続人と配偶者との共有であった場合には成立が認められます。

配偶者は法律上の地位である

そして、改正相続法にいう「配偶者」とは法律上被相続人と婚姻していた配偶者をいいます。

そのため、いわゆる「内縁の妻」は配偶者には含まれません

配偶者居住権の法的性質

配偶者居住権は配偶者の一身専属権として成立します。

そのため、権利の帰属主体は配偶者に限定されますし、配偶者が権利を他者へ譲渡することはできません

そして、配偶者が死亡した場合は、配偶者居住権は当然に消滅して相続の対象にもなりません

原則として、この権利は配偶者の終身の間存続しますが、遺産分割や死因贈与の際に存続期間を定めることも可能です。

税制面でも有用な配偶者居住権

税理士の専門分野のため詳しくは記載しませんが、配偶者居住権は相続税法上の取り扱いにおいても有利に働く機能があります。

配偶者居住権が消滅した後に本来の所有者は完全な所有権を有することになるので、配偶者居住権分の価値増加という実質的利益を得ることになるのですが、相続税法上はその価値増加分には課税しないという取り扱いになっているからです。

こういった仕組みをうまく利用すれば配偶者居住権は実際の生活の面だけでなく税制面でも有利になります。

相続のこと、配偶者居住権について詳しく相談したい場合には「そうだ、行政書士に相談しよう」と気軽に声をかけてください。

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