遺留分ってなに?
自分の財産だから、誰にあげるか、どう処分するかは全部自分で決めよう!
このように考えて "遺言" のほか、生前贈与などを活用した相続対策をしている方も多いのではないでしょうか?
"遺留分" はこれに「ちょっと待った」をかける制度といえます。
端的に言うと、遺留分とは "相続人がもつ遺産に対する最低保障" です。
この制度の法的な趣旨は、「相続人の生活保障」や「推定相続人の期待を保護する」といったものが挙げられます。
民法改正!遺留分減殺請求 ➡ 遺留分侵害額請求権へ
でも、亡くなる人(被相続人)からすれば自分の財産を完全に自由にはできないということになります。
そこで、 "遺言" や "相続"対策においては、この遺留分について対策を講じることが非常に重要になります。
まず、遺留分制度は平成30年の民法改正により大きな変更がありました。
これについてみてみましょう。
民法(抄)
【第1046条】
遺留分権利者及びその承継人は、受遺者又は受贈者に対し、遺留分侵害額に相当する金銭の支払を請求することができる。
条文の通り、遺留分権利者は遺留分を主張する場合には「遺留分侵害額請求権」という金銭債権を基にすることになります。
でも、この条文だけみるとピンとこない方も多いかもしれません。
改正前の民法ではどうだったかというと、「遺留分減殺請求権」という一種の物権を基にしていました。
物権は債権と比べても非常に強い権利ですから、減殺請求をする相続人は不動産についても「遺留分登記」を行うこともできました。
その弊害として、不動産が無用な共有状態となり処分が困難になったり、次世代への相続が生じると話し合いがこじれ、結果として未登記不動産が増加する要因にもなっていました。
そこで平成30年の民法改正では物権的な遺留分減殺請求権を債権的な遺留分減殺請求権へと転換し、原則として金銭による代償請求権とすることにしました。
遺留分権利者と受遺者等が合意の上で、「現物」(不動産など金銭以外のもの)で弁済も可能です。
※ただし、現物は別途、「譲渡所得税」の問題が出る場合があります。ここは税理士の扱う論点になるので本ブログでは割愛します。
参考:所得税基本通達33-1の6
遺留分算定の基礎
遺留分基礎となる財産の算式は以下となります。
相続開始時の積極財産+贈与した財産の価額-債務の全額
【補足:相続開始時の積極財産について】
①相続人に対する贈与のうち相続開始前10年間にした贈与
②相続人以外の者に対する贈与のうち相続開始前1年間にした贈与
③当事者双方が遺留分権利者を害することを知ってした贈与(年数制限なし)
遺留分割合の計算
父母等の直系尊属のみが相続人の場合は相続財産の3分の1、それ以外の場合は2分の1となります。
意外に思うかもしれませんが、「兄弟姉妹」やその子である「甥姪」には遺留分がありません。
そのため、遺留分を主張するパターンは全部で7通り
となります。
配偶者の遺留分 | 血族相続人 全体の遺留分 | |
①配偶者のみが相続人 | 2分の1 | |
②子のみが相続人 | 2分の1 | |
③直系尊属のみが相続人 | 3分の1 | |
④兄弟姉妹のみが相続人 | なし | |
⑤配偶者と子が相続人 | 4分の1 | 4分の1 |
⑥配偶者と直系尊属が相続人 | 3分の1 | 6分の1 |
⑦配偶者と兄弟姉妹が相続人 | 2分の1 | なし |
遺留分侵害額請求の方法
民法(抄)
【第1048条】
遺留分侵害額の請求権は、遺留分権利者が、相続の開始及び遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知った時から1年間行使しないときは、時効によって消滅する。相続開始の時から10年を経過したときにも、同様とする。
遺留分侵害額の請求権は、相続の開始や贈与・遺贈があったことを知った時から起算して「1年間」を経過すると消滅します。また、相続開始から10年間を経過すると事情いかんを問わずに行使不可となります。
配達証明付き内容証明郵便を活用して通知を送ることが重要です。
遺留分を失くす方法
民法(抄)
【第1049条】
相続の開始前における遺留分の放棄は、家庭裁判所の許可を受けたときに限り、その効力を生ずる。
【第1049条2項】
共同相続人の1人のした遺留分の放棄は、他の各共同相続人の遺留分に影響を及ぼさない。
"遺言" を作成するときなどは、基本的に遺留分を意識して侵害しないような内容にしていきます。
しかし、場合によっては被相続人の意思の通りにすると遺留分を侵害せざるを得ないこともあります。
その場合、遺留分の侵害を受ける相続人に対して、事前に理由や被相続人の思いを伝え「遺留分の放棄」という対策をとることも可能です。
相続開始前(つまり、被相続人が亡くなるより前の生前)の場合には家庭裁判所の許可を要します。
しかし、相続が開始した場合には家庭裁判所の許可は不要です。
よく「相続の放棄」というワードがありますが、それと「遺留分の放棄」とは全く別モノとなりますので注意してください。
このように、 "遺留分" ひとつとってみても多くの論点があり、遺言を作成する人や亡くなった人それぞれの財産状況・ご家族構成によって問題となることが異なります。
私たち "行政書士" はこのような論点を個別の状況に当てはめながら提携の税理士と協力して業務を遂行します。
"遺言" や "相続" のことで悩んだら「そうだ、行政書士に相談しよう」と気軽に声をかけてください。