相続税の申告期限とペナルティ
税金はなるべく払いたくはないものです。
この意見は、お金持ちもそうでない人にも、皆に共通する気持ちではないでしょうか?
《 このページの目次 》
事例で考える相続税申告
ある程度の財産をお持ちの方が亡くなった場合を想定してみましょう。
そして、その方には "遺言書" がありませんでした。
その場合、残された家族や親族(=相続人)は、民法の規定である法定相続分に従って財産を相続します。
それらの財産を分けるには相続人全員での "遺産分割協議" によります。
では、 "税金" はどうなるのでしょうか?
相続税法(抄)
【第27条】
相続又は遺贈により財産を取得したもの及び当該被相続人に係る相続時精算課税適用者は、~(途中省略)その相続の開始があったことを知った日の翌日から十月以内に、課税価格、相続税額その他財務省令で定める事項を記載した申告書を納税地の所轄税務署長に提出しなければならない。
つまり、基本的には亡くなった日の翌日から起算して "10ヵ月以内" に相続税の税務申告をしなければならないということです。
相続税の申告は放置できるか
ここで冒頭に戻ります。
税金を支払いたくないと思ったアナタは遺産分割協議をしないまま、税務署への申告を放置してやり過ごそうと考えました。
これで税金から逃れられるのでしょうか?
答えは残念ながら "No" となります。
相続税法(抄)
【第55条】
相続若しくは包括遺贈により取得した財産に係る相続税について申告書を提出する場合又は当該財産に係る相続税について更正若しくは決定をする場合において、当該相続又は包括遺贈により取得した財産の全部又は一部が共同相続人又は包括受遺者によつてまだ分割されていないときは、その分割されていない財産については、各共同相続人又は包括受遺者が民法(第九百四条の二(寄与分)を除く。)の規定による相続分又は包括遺贈の割合に従つて当該財産を取得したものとしてその課税価格を計算するものとする。~(以下余白)
税務署は相続税を徴収できないと困るので、相続人たちが遺産分割を終えるかどうかに関係なく、期限がきたら一旦は法定相続分に基づいて相続がなされたものとして税計算して申告させます。
そうすれば、遺言書がなく遺産分割も確定していない場合でも相続税の徴収漏ればなくなります。
つまり、相続税は知らんぷりして放置しても必ず課税されることになります。
相続税申告を放置したときのデメリット
しかし、問題はここで終わりません。
実は、このような「遺産分割の未確定状態」での申告は非常に大きなデメリットが発生します。
それは、相続にまつわる税の軽減制度が使えなくなる点にあります。
大きくは以下の6点が挙げられます。
➀配偶者の税額軽減制度
もともと配偶者は相続税法上で優遇されています。
配偶者は法定相続分(2分の1、3分の2、4分の3)または1億6,000万円以下であれば、相続税がかかりません。
このような巨額の特例優遇措置があるのですが、申告書の提出期限までに遺産分割が確定していなければ適用を受けることがきなくなってしまいます。
これは非常に大きな痛手といえます。
➁小規模宅地等の特例
被相続人等やその同族会社が経営する事業用宅地、被相続人等の自宅敷地については、一定の条件・規模に限りはありますが相続税の評価額が大きく減額されます。
➀と同様に申告書の提出期限までに遺産分割が確定していなければ適用を受けることができなくなります。
結果として、納税者全員の相続税額が増えることになってしまうので、非常に不利な状況に陥ります。
③農地等の納税猶予制度の特例
被相続人が農業を営んでいた個人である場合、三大都市圏の生産緑地・それ以外の地域の農地等は、相続人が農地を取得して農業経営を開始するなど多くの要件を満たせば、本来の相続税額と農業投資価格により計算した相続税額との差額について納税猶予が認められています。
これは、農家の方や相続を機に農業経営を始めようとする相続人からすれば大きな特例です。
しかし、この特例も期限内申告かつ有効な遺産分割が完了していなければ利用できなくなってしまいます。
➃非上場株式等の特例納税猶予制度
被相続人が株式会社の代表だった場合、総株主等議決件数の50%超の株式を保有し、かつ、筆頭株主である場合に特例納税猶予を受けることができます。
その他、別途定められた期限内に認定経営革新等支援機関の助言指導を受けた「特例承継計画」を作成した上で、都道府県知事の確認を受けなければなりません。
また、この猶予を受けるには後継者にも要件があります。
相続開始前に役員に就任しており相続発生後5カ月以内に代表権を有すること、同族関係者との間で総株主等議決権数の50%超の株式を保有していること、単独であれば筆頭株主であること等が要件になります。
この特例は期限内申告かつ遺産分割の完了はもちろんのこと、相続発生後5カ月以内に代表権を有することという要件もあるので、そもそも遺言書で「後継者に自社株式を相続させる」という遺言書が必要とも考えられます。
⑤個人事業者の事業用資産に係る納税猶予制度の特例
こちらも➃に似ており、「個人事業承継計画」という形で個人事業を対象とした特例制度です。
青色申告を受けていた等の要件を満たした上で、期限内申告と有効な遺産分割の完了をすれば後継者が取得した事業用財産について納税猶予の特例を受けることができます。
こちらの制度も本当に利用するのであれば、被相続人の死後に場当たり的な相続手続きとして採用せず、事前に遺言書を活用した段取りが必須といえるでしょう。
⑥物納
申告期限内に有効な遺産分割が調わない場合には、物納による納税が明らかに有利な場合であっても適用できません。
やはり、物納を予定する場合も事前に遺言書で相続先を指定しておくことが望ましいと言えます。
いかがでしょうか?
ここまでを見てわかるように、遺産分割協議を放置したり、相続税の申告期限を過ぎてしまうことで大変な負担となることがおわかりいただけると思います。
実務では、相続税の計算や申告には提携する税理士がサポートすることになります。
しかし、遺言や相続、遺産分割という一連の手続きにおいて、最初の入り口となるのが "行政書士" です。
日々、他の職域についても幅広く知見を広げるべく研鑽を続けていくことで依頼者の最善解を目指します。
「そうだ、行政書士に相談しよう」と気軽に声をかけてください。