遺言書 がもつ役割
本ブログ題名の質問。改めて言われてみると一体何ができるんでしょうか?
「遺産の分け方を決めるってことでしょ」という意見が多数かもしれません。
ところが、実際は "遺言書" を書くことによって遺言者ご本人ができる法律行為は他にもたくさんあるんです。
今日は、 "遺言" によってできる法律行為について概要をご紹介します。
おおまかに "遺言" では 8つの法律行為 について設定することができます。
細かくいうと、特別受益の持戻免除や祭祀承継者の指定、債務免除等もありますが相続がからむ分野になるので本ブログでは割愛します。
そして、それら法律行為とは別に、その "遺言" を作成した動機や残された家族へのメッセージなどを書くこともできます。
そういった法的効力を持たない遺言者ご本人の "思い" を 付言事項(ふげんじこう) といいます。
《 このページの目次 》
➀相続分の指定
一般的に "法定相続分" という言葉を耳にすることがあります。
これは "遺言" が無い場合の相続人の相続分について目安として民法に定められている割合をいいます。
しかし、遺言者ご本人は遺言書によって自由に相続人の相続分を指定することができます。
文例)長男Aの相続分を5分の4、次男Bの相続分を5分の1とする。
➁遺産分割方法の指定と分割の禁止
遺言者ご本人はご自身の財産を引き継ぐ相続人が、どのように遺産分割をするかの方法を指定することができます。
遺産分割の方法には大きくわけて、 現物分割・換価分割・代償分割 の3パターンがあります。
なお、他にも遺産分割方法を第三者に委託することや、相続開始の時から5年を超えない期間で遺産の分割そのものを禁止することもできます。
文例)千葉県○○市△△△△の土地及び同土地上の建物を次男Bに相続させる。
○○銀行△△支店□□の預金は妻Aに相続させる。
③相続財産の処分
遺言者ご本人は、法定相続人に限らず孫等の親族や第三者、任意団体等に対しても財産を遺贈することができます。
遺贈はあまり聞きなれない用語ですが、相続人「以外」の方へ自分の遺産をプレゼントしたい場合に使うものと思ってください。
文例)公益財団法人○○に、現金5,000万円を遺贈する。
➃非嫡出子の認知
いわゆる「内縁の妻」(結婚していない女性)との間にできた子がいる場合に、生前には認知をしていなかったとしても、 "遺言" によって認知をすることが可能です。
認知された子は遺言者ご本人の子として相続人に加えることができます。
文例)遺言者は、本籍 千葉県○○市△△△△の銚子太郎(令和○年○月○日生)を認知する。
⑤相続人の廃除及びその取消し
例えば、生前に遺言者ご本人がご家族から虐待を受けるなど法定の廃除事由がある場合には、遺言者ご本人は、虐待者である相続人を相続人から除く「廃除」の申立てを遺言によって行うことができます。
また、その際は理由もきちんと書いておくべきです。
ただし、「廃除」は虐待した相続人本人だけが相続人から廃除されることのみを効果とするので、その廃除された相続人に子がいる場合は、「廃除」によって相続人に引き継がれることがなくなった相続分はその子に代襲相続されることになります。
文例)遺言者は、遺言者の三男Dを推定相続人から廃除する。(以下、理由)
⑥未成年後見人等の指定
遺言者ご本人に残された未成年の子がいて、親権者がいなくなる場合には遺言によってその未成年者の後見人や後見監督人を指定することができます。
未成年後見人には、未成年者の子の財産管理等を任せることができます。
未成年後見監督人には、未成年後見人が未成年の子の財産を正当に管理しているかチェックさせることができます。
文例)遺言者は、未成年者である次男Fの未成年後見人として次の者を指定する。
本籍 ○○○○
住所 △△△△
職業 ✖✖✖✖
氏名 銚子 太郎 (昭和○○年○月○日生)
⑦配偶者居住権の設定
遺言者ご本人は、遺言によって配偶者居住権を設定し配偶者に遺贈することができます。
配偶者居住権は相続法の改正によって新設された権利です。
所有権という100%の権利から、居住権という50%の権利を分離するというイメージがわかりやすいです。
本ブログでは権利内容の詳細は割愛します。
配偶者居住権は相続人全員による遺産分割協議でも設定することは可能です。
しかし、遺言書が無い場合の遺産分割協議は紛争性を帯びることも多く、その場合には全員が合意して配偶者居住権を成立させることは期待できません。
そのため、配偶者居住権を活用する場合には遺言が非常に重要なキーポイントとなります。
また、配偶者居住権は改正相続法の施行日(令和2年4月1日)より前に書かれた遺言においては設定ができません。
必ず施行日よりも後に遺言書を作成した上で、配偶者居住権を設定するとともに下記文例の通り、「相続させる」ではなく「遺贈する」という文言を使用することが肝要です。
文例)遺言者は、遺言者の所有する下記自宅建物の配偶者居住権を遺言者の妻Gに遺贈する。
同建物の所有権は長男Aに相続させる。
以下、不動産の記載(所在・・・・)
⑧遺言執行者の指定又は委託
遺言書には、不動産だけでなく預貯金や株式など様々な財産内容が記載されることがほとんどです。
それらをどよのうに分配するのかは記載されていても、法的知識が不十分な相続人(ご家族)だけでは遺言の内容が迅速・十分に執行されない恐れが生じます。
そのため、遺言者ご本人は遺言で「遺言執行者」を指定することができます。
遺言執行者は民法に規定された身分によって、相続財産の処分手続き執行者として強力な権限を有します。
法務を専門とする "行政書士" は遺言執行者として手続きに精通しています。
文例)1 遺言者は、本遺言の執行者として、次の者を指定する。
住所 ○○○○
職業 △△
氏名 銚子 太郎(昭和○○年○月○日生)
2 遺言者は、遺言執行者に対し、本遺言の内容を実現するための名義変更、解約、換金等一切の権限を与える。また、遺言執行者は、遺言者名義の貸金庫契約の解約、内容物の引取り権限を有するものとする。
3 遺言執行者は、本遺言の執行事務につき、その全部又は一部を第三者に委任することができるものとする。
付言事項の重要性
冒頭にも書いた通り、付言事項には法的効力がありません。
しかし、場合によって付言事項は本来の遺言内容よりも大切な効果を発揮することがあります。
遺言では法定相続分を考慮せず、遺言者ご本人の最後の意思として財産の処分方法を指定できます。
残された家族等、相続人の中には不公平感や不満を抱く者も少なからず出てくるものです。
遺言者ご本人からすれば、自分が亡くなった後に相続人の間で争いが起きることは望みません。
そうした時、付言事項に「遺言を作成した動機」や「相続分の指定についての理由」、「皆で仲良くやって欲しい等の気持ち」を記載しておくだけで相続人間のわだかまりが無くなることも多いです。
そういった意味で、付言事項は法律的な意味を超えて非常に重要な役割を果たしています。
遺言が私たちの生活に非常に密接にかかわる法律行為であることがおわかりいただけると思います。
実際にも『遺言』は、弁護士をはじめとする私たち "士業" においては、その重要性が周知の事実として認識されているので、そのほとんどが自分の『遺言』を作成しています。
もし、遺言に少しでも興味があれば「そうだ、 "行政書士" に相談しよう」と気軽にお声がけください。