『登記』って何のため?
前回、別ブログで "不動産" の定義を書きました。
基本的には "土地" と "その定着物" が不動産です。
便宜上、本ブログでは "その定着物" という定義をわかりやすく "建物" と置き換えて表現します。
下記の事例をご一読ください。
【事例】
ある日、あなたは念願のマイホームとして一戸建てを購入しました。
家族全員で悩みに悩んで決めた素敵なお家です。
売主である不動産屋さんへマイホーム代金としてウン千万円もする大金も支払いました。
さぁ、あとは引っ越し日を待つばかりです。
引っ越し当日。購入したマイホームへ行くと、見知らぬ誰かが家にいます。
不審に思って、その見知らぬ人に話を聞くと、その人は「この家はオレの家だ!出ていけ!」と言います。
???どういうこと?誰なの、この人?もう訳わからない…。
さて、ここで質問です。
「あなたにとって念願のマイホーム。事例の "見知らぬ誰か" に対して、この家があなたのモノだと言えるでしょうか?」
あなたの心情的には、「誰だか知らないが、とっとと私の家から出ていけ!」というのが正直な気持ちですね。
ですが、現実はそうはいきません。
なぜでしょうか?
そのポイントは "法律" にあります。
《 このページの目次 》
民法(抄)
【第177条】
不動産に関する物権の得喪及び変更は、不動産登記法その他の登記に関する法律の定めるところに従いその登記をしなければ、第三者に対抗することができない。
この条文にある「不動産」は前述の事例でいうなら「マイホーム」と同じ意味ですね。
そして、「得喪及び変更」はマイホームを不動産屋から適法に「買ったという事実」そしてその「代金を支払ったという事実」と同じ意味です。
さらに、「第三者」は「見知らぬ誰か」となります。
つまり、言い換えると、民法177条によれば以下の通りです。
「マイホームを買って代金を支払ったとしても、登記をしなければ、見知らぬ誰に家を奪われても追い出すことができない。」
このように読み替えるとイメージができるのではないでしょうか?
本ブログのタイトルがどれくらい重要なことかわかりますね。
過去から現在に至るまで、広く世の中では様々な物(ブツ)が売買されています。
とりわけ "不動産" は高額な売買となる物(ブツ)です。
通常、ある物(ブツ)を「売買する」という行為は「売買契約を結ぶ」と同じ意味です。
一部、アカデミックな専門領域では「契約」と「合意」「約束」などは別々の概念ですが、ここでは大きな意味を為さないので割愛します。
さて、一旦、「売買契約」に焦点をあててみましょう。
民法(抄)
【第555条】
売買は、当事者の一方がある財産権を相手方に移転することを約し、相手方がこれに対してその代金を支払うことを約することによって、その効力を生ずる。
売買契約に関する条文を読む限りでは、売主・買主が売買契約を約した(締結した)ら対象物である物(ブツ)の所有権は相手方に移転するということになります。
「契約」と言葉にすると構えた風に感じますが、契約方式に特段の決まりはなく極端な話、「口約束」でも契約は成立します。
ただ実務では、口約束した瞬間に代金未払いの状態で物(ブツ)の所有権が相手方へ移転してしまっては現実的な不都合を生じてしまうので、特約として「代金が支払うと同時に所有権が相手方へ移転する」という条項で一時的に所有権を留保しておくことが通例です。
民法はパンデクテン方式という記述形式を採っています。
改正民法は第1条から第1050条までありますが、最初に全体ルールである "総則" が記述されています。
そして、条数が大きくなるにつれて契約類型など、より個別具体的なルールへと記述内容が移っていく形式です。
ただし、 "不動産" については前述したパンデクテン方式の "物権編 総則" の全体ルールに登記を "対抗要件" とする記述があります。
だから、仮にマイホームを購入して代金を支払ったとしても、登記をしなければ第三者に対抗することができないということになってしまう訳です。
ちなみに、登記手続きは "不動産" を購入した本人が申請する以外に誰かに代理申請をお願いする場合には、「司法書士」もしくは「弁護士」以外では受任できません。
私は "行政書士" であり専門領域が異なるので、 "不動産" の登記だけは提携の司法書士へ依頼して手続きを遂行しています。
余談ですが、事例にあったような「見知らぬ誰か」を法律用語では「第三者」と呼ぶことは前述しました。
でも、いくら民法177条が登記を対抗要件としているとしても、ただ単に登記していないからという理由だけで一律に所有権主張を封じてしまうのは一般的な社会通念上も合理性に欠けてしまいます。
そのため、そこについては、実際の裁判例によって一定の制限もあります。
大連判明治41.12.15
判決要旨(抄)
民法第177条にいう第三者とは、当事者もしくはその包括承継人以外の者で、不動産物権の得喪及び変更の登記の欠缺を主張するにつき正当の利益を有する者をいう。
※欠缺(けんけつ)とは、不存在を意味します。
例えば、「見知らぬ誰か」が単なる悪意を超えて利害を害する意思をもって、他人が所有する「たまたま」登記が完了していない不動産を勝手に占有した場合を想定してみます。
こういった場合の「見知らぬ誰か」を法は "背信的悪意者" と呼んで第177条の「第三者」から排除します。
「第三者から排除されてしまう」ということは、逆に考えれば第177条のルールが適用されないということを意味します。
その場合、マイホームを購入した正当な所有権者は登記がなくても "不動産" の所有権を主張できる、ということになる訳です。
実務上は、 "背信的悪意者" のほかに
"不動産登記法5条所定の者"
"無権利の名義人"
"不法占拠者・不法行為者"
"前主・後主の関係にある者"
など、いくつかの類型パターンが第177条にいう「第三者」にはあたらないとされています。
私たち不動産の実務家は、こういった "不動産" の特別ルールを常に意識して現実の売買が "登記" の観点から問題にならないように徹底している訳です。
もし、マイホームを購入しようとする場合には、ぜひ "登記" についても興味を持って物件選びをしてみてください。