農地転用とは
あなたの職業は "農家" ですか??
この質問にYesと答える方はどのくらいいるでしょうか?
独立行政法人 労働政策研究・研修機構 が公表している産業別就労者数の統計データを見てみましょう。
https://www.jil.go.jp/kokunai/statistics/chart/html/g0004.html
"農業" のほか林業、漁業を含めた全てを「第一次産業」と呼びますが、その就業者数は日本全国の産業全体6,667万人に対して「約211万人」、割合にして「約3.2%」にすぎません。
つまり、あなたの町で100人に声をかけたら、そのうち3人だけが "農業" を仕事にしているということです。
ただ、実際は林業や漁業も含めているので、場合によっては100人中1人というくらいかもしれません。
つまり、世の中の大多数は "農業" の従事者ではなく、大雑把な話サラリーマンということになります。
農地はなぜ安いのか?
さて、本ブログに「農地」という単語を掲げました。
一般に農地は非常に安く購入できます。
土地を購入して建物を建築しようとする人からすると、掘り出し物を見つけた!と思うのではないでしょうか。
おそらく、不動産サイトでその「安い土地」を見つけたら、「地目:畑」とか、「地目:田」などと書いてあるのではないでしょうか?
ここに「安さのヒミツ」が隠されています。
端的にいうと、「農地」は普通のサラリーマンがその土地を買っても、そのままでは家が建てられません。
言い換えれば、「だから安い」のです。自分の好きなように家を建てられない土地ですからね。
ではなぜ、「農地」は自分の好きに家を建てられないのでしょうか?
ここには "農地法" という法律が関係します。
農地法(抄)
【第3条】
農地又は採草放牧地について所有権を移転し、又は、地上権、永小作権、質権、使用貸借による権利、賃借権若しくはその他の使用及び収益を目的とする権利を設定し、若しくは移転する場合には、政令で定めるところにより、当事者が農業委員会の許可を受けなければならない。(~省略)
【第4条】
農地を農地以外のものにする者は、都道府県知事(~省略)の許可を受けなければならない。(~省略)
【第5条】
農地を農地以外のものにするため又は採草放牧地を採草放牧地以外のもの(~省略)にするため、これらの土地について第3条第1項本文に掲げる権利を設定し、又は移転する場合には、当事者が都道府県知事等の許可を受けなければならない。(~省略)
簡単にまとめると、
今ある「農地」を失くしてしまう行為(転用)をするには、事前に「許可」を受けなければいけないというルール だからです。
その制度の概略としては、
"第3条" 許可は、 農家 ⇒ 別の農家 へ手続きする場合の許可です。
"第4条"許可は、 農家 ⇒ その農家自身 で手続きする場合の許可です。
"第5条"許可は、 農家 ⇒ サラリーマン へ手続きする場合の許可です。
"第3条許可"
既に農家の人が持っている農地について、他の農家へ売ったり、権利を設定する場合の許可です。
"権利を設定する" 行為の代表例は、賃貸借つまり畑や田を借りて耕作することです。
許可権者は "農業委員会" です。
この"農業委員会" という組織は農家の方でないと全く馴染みがないと思います。
でも、この "農業委員会" は法律に基づいて、どの市町村にも置かれている大切な組織なんです。
地方自治法(抄)
【第180条の5】
執行機関として法律の定めるところにより普通地方公共団体に置かなければならない委員会及び委員は、左の通りである。
➀教育委員会…(~省略)
【第180条の5 第3項】
第1項に掲げるものの外、執行機関として法律の定めるところにより市町村に置かなければならない委員会は、左の通りである。
➀農業委員会
➁固定資産評価審査委員会
是非、ご自身が住む市役所・町役場・村役場にある農業委員会を確認してみてください。
"第4条許可"
既に農家の人が持っている土地について、その農家の人ご本人が転用する場合の許可です。
そのため、第4条許可の場合、農地の持ち主は変更しません。あくまで、農地だった土地を他の用途に変更する場合の許可となります。
許可権者は "都道府県知事" です。
これは簡単ですね。東京都なら東京都知事、千葉県なら千葉県知事です。
ただし、いきなり申請の書類を都庁や県庁へ送るのではなく、最寄りの "農業委員会" を経由して提出することになります。
ここでもやっぱり、 "農業委員会" が最初の提出先になります。
"第5条許可"
既に農家の人が持っている土地について、全くの第三者であるサラリーマンへ売って、そのサラリーマン自身が農地だった土地を他の用途に変更する場合の許可となります。
許可権者は第4条許可と同じく "都道府県知事" となります。
提出方法も同じく、 "農業委員会" を経由して申請します。
ここまでを読んでいただいてわかる通り、基本的に皆さんにとって身近なのは "第5条許可" 申請であることがわかります。
ここで登場するのが我々 "行政書士" です。
申請と聞くと簡単に思うかもしれませんが、農地法はその立法趣旨・目的から非常に厳しい運用基準があり何でも自分の好きな計画通りになるものではありません。
その手続きの面倒さゆえに、許可を得ずに "違反転用" をしてしまう事例が後を絶ちません。
そして、その違反に対しては非常に重い罰則も法律で規定されています。
農地法(抄)
【第64条】
次の各号のいずれかに該当する者は、3年以下の懲役又は300万円以下の罰金に処する。
(~省略)
世の中には、個人が有する私権(権利)を制限する法律は数多くありますが、農地法の罰則規定はその中でも厳しい規定になっています。
この罰則の厳しさは、本来、農地法が持つ究極的な目的が、「国民に対する食料の安定供給の確保に資すること」であるため、農地の持ち主が自分の土地だからといって無秩序に農地を農地で失くしてしまう行為を厳しく規制していることによります。
私たちが住む日本は、他国と比べて国土が狭く、さらに平地が少ないことで "物理的に" 食料の自給が不足してしまいます。
他国と友好関係があるうちは、食料を輸入して不足分を賄えば良いですが、一転して輸出入がストップすれば国内の農地だけで自給しなければいけません。
近時、ロシアがウクライナへ侵攻した事件をみれば想像がつきますね。
このように、農地を転用する申請ひとつとってみても、実は色々な法規制があり想像しているよりも難しい手続きになります。
当事務所では、そんな農地法に基づく転用申請について、単に申請代行するだけでなく、その後の開発申請や建築許可に至るまで、ワンストップでお手伝いさせていただきます。
不動産屋さんで "農地" をみかけたら、「そうだ、"行政書士" に相談しよう」と気軽に声をかけてください。